567 567. Really down




 俺はアブソリュートロックの石を取り出した。

 アルセニックダンジョンのモンスター、アブソリュートロック。
 そのモンスターがドロップしたこのアイテムは、つかえばほぼほぼ無敵状態になるというアイテムだ。

 そのかわり普通は大幅に行動力が制限されて、ダメージは受けないけど相手に攻撃も出来ないという状況になる。

 何かを観察するときや、予期できる大技をやり過ごすときとかに力を発揮できるアイテムだ。

 それが今だ。
 俺は無敵状態を駆使して、猫又の様子見をした。

 アブソリュートロックを使い出して、最初のエンカウント。
 猫又は二本のしっぽをなびかせて襲ってくる――。
 途中で攻撃を止めて、すぅ、とグレープフルーツを残して消えた。

 解除して、更に歩いて次の猫又のいる場所に向かう。
 エンカウントして、再びアブソリュートロックの石を使う。

 今度は猛烈に攻撃された。
 ひっかき噛みつき体当たり、なんでもござれな勢いでやられ続けた。
 すぅ、と消える気配はまったく無い。

 たっぷり三分、カップ麺が出来る程度の時間を待ってから、無敵状態を解除して反撃。
 正確にヘッドショットを決めて一撃で猫又を倒すと、今度は倒したのでドロップした。

「ふむ」

 なんとなく見えてきた。
 更に次の猫又の居場所に向かっていく。
 次の、次の、次々と。

 猫又の居場所に向かっていっては、無敵状態で様子見する。

 すると、攻撃してくる猫又と、直前で攻撃をやめて勝手に消える猫又の二種類がある事がわかった。

 攻撃を続ける猫又は、倒せばちゃんとドロップする。
 攻撃をしない方は……

「加速弾だな」

 ユニークモンスター達の街、今や「サトニウムダンジョン」と呼ばれるそこから一日に一発しか取れない貴重な弾丸。
 攻撃してこない方の確率は大体20%、五体に一体だ。
 20%っていう確率は、はまったら(、、、、、)十回くらい連続で外れることもないわけではない。

 はまってしまうと加速弾を大量に消費してしまう事になるけど――仕方ない。

 道具は消耗品といえど、溜めておくだけじゃ意味がない。
 使うべき時は使う。
 金とまったく同じだ。

 俺は加速弾の数をさっと確認してから、次の猫又の所に向かう。

 エンカウントすると、アブソリュートロックの石は使わずに、加速弾を使った。

 そのまま待った。

 加速した世界の中で、ゆっくりと飛びかかってくる猫又。

 ものすごく遅い、コマ送り再生くらいのスピードだ。
 俺はじっと待った、やがて肉薄してきた猫又の爪が皮膚に触れた。

 これは消えないパターンだと分かった。
 皮膚に触れても余裕でよけて、至近距離からヘッドショットで猫又を倒す。
 グレープフルーツを拾って、更に次の猫又に向かう。

 同じように加速弾で――また消えない方だった。

 更に次、その次、またまた次――と。

 消えない方が5連続で続いた。

「かたよるなあ」

 嘆く内容にもかかわらず、ちょっと笑いがでた。

 今までエンカウントした数々の猫又、そして脳内マップで見えている多くの光点。
 消える方と消えない方に違いは無かった。
 両方まったく同じだった。

 つまり、運って事だ。

 この手の運を攻略する方法は一つしかないと俺は思っている。

 人によってはいろんなやり方を変えたりして、オカルトに頼る事もあるが、おれはそうしない。

 ただ――出るまでやる。

 確率がゼロじゃない限り、でるまでやるしかないのだ。

 そう腹を決めて――加速弾六発目。

 エンカウントして飛びかかってきた猫又が目の前でピタッと止まった。

 コマ送りしている加速した世界の中でも、はっきりと分かる「ピタッ」。

 この後、コンマ1秒後くらいに消え始める。
 俺はそのままヘッドショットで撃ち抜いた。

 消える直前に撃ち抜かれた猫又は攻撃によってきえて――ドロップはなかった。

「うん」

 結果に、俺は満足した。
 はっきりと結果が出たからだ。

 攻撃を続ける猫又は倒してドロップ。
 一部で攻撃を途中でやめて、そのまま消えてドロップする猫又もいるが、そういうのは向こうが消える前に倒したらドロップはしない。

「消える方のタイミングも絶妙だな」

 俺は感心した。
 消える方を意識して待つとなると、普通の猫又の攻撃を受ける覚悟でやらなきゃいけない。
 それは、普通の冒険者には絶対にありえないやり方だ。

 この世界の冒険者は生産者だから、基本思想は「安定周回」だ。
 攻撃をうけなきゃいけないやり方は論外だ。

 そして、今のところ両方を見分ける方法はない。
 つまり――

「俺も含めて、実質全員がドロップ能力下げられてる事になるな」

 思わず声に出してつぶやくくらい、良くできているなと思った。

「ふふ」

 ニホニウムの意地悪なところが残っているな、と感じた俺は、彼女らしさを見つけて、ちょっと嬉しくなったのだった。