566 566. Cat and
階段を降りて、地下十二階にやってきた。
今度は雪が降っていない、おどろおどろしいだけの内臓ダンジョンだ。
「だけって」
思わず微苦笑してしまった。
この内臓の様なダンジョンを「だけ」っていう感性自体どこかずれているんじゃないかって思ってしまった。
普通に考えて全然「だけ」じゃない。
見た目はおどろおどろしくて……人に依ってはおぞましく感じる事もあるだろう。
更に、この手のダンジョンは、最終的に「ニホニウムの体の中だった」「最後はニホニウムの子宮に繋がっていた」とか、そういう系のパターンが多い。
そういう知識がある俺は、本来「だけ」って思うような事はないはずなんだが。
「毒されすぎだな」
苦笑いしつつ独りごちて、俺は意識して気を引き締めた。
ある意味これがよかったのかもしれない。
その事に気づいて、ふんどしを締め直す考えになったのはいいことだ。
銃をちゃんと用意して、脳内マップにそって歩き、モンスターに会いに行った。
角を二つ曲がった先に、脳内マップで探知したとおりにモンスターがいた。
「猫又か」
今度はわかりやすく、俺でも知っている妖怪だった。
大型犬ほどもある巨大な猫、そのしっぽが二股に分かれている。
猫又という、妖怪の中では結構メジャーなヤツだ。
俺は銃を構え、猫又の眉間を撃ち抜いた。
出会い頭の攻撃だったから、猫又は反応することなく撃ち倒された。
「またか」
さっきと違う意味で苦笑いした。
猫又を撃ち抜いたのに、ドロップしなかったのだ。
ダンジョンは階層が深くなればなるほど、特殊な倒し方じゃないとそもそもドロップしないことが多い。
そのためにダンジョンが現われた時は実力のある冒険者を使って調査をさせる。
上の階に続いて、この階も特殊な倒し方がいる階層のようだ。
今のところなぜドロップしなかったのか、どうすればドロップするのかを判断する情報が決定的に足りてない。
それを得るために、俺は更に別の猫又を探した。
脳内マップで、すぐにエンカウントした。
「偽物とかじゃなし、と」
上の階の様に、見えるけど光点じゃない=偽物というような事じゃなかった。
それでまず一つの可能性を消していると、猫又が大きく跳躍して、俺に襲いかかってきた。
巨体が覆い被さってきて、全身がその影にすっぽりと覆われてしまう。
俺は横にとんで、狙いをつけて引き金を引いた。
銃弾が猫又の側頭部を撃ち抜いて倒した。
すると、今度はポン、とドロップした。
ドロップしたのはいかにも柑橘類な果物。
拾い上げて割ってみると、覚えのある香りが鼻腔をくすぐってきた。
「グレープフルーツか」
そうつぶやきながら一口かじってみる。
やっぱりグレープフルーツで間違いないみたいだ。
それをひとまずグランドイーターのポケットにしまって、別の猫又に会いに行く。
一分もしないうちに次の場所に着いて、今度は先制攻撃で撃ち倒した。
最初の時と同じように、今度はドロップがなかった。
すると先制攻撃がいけないのかという疑問が湧いた。
更に別の猫又を見つけて、今度は少し待って、まずは攻撃をさせる。
それをよけて、グレープフルーツがドロップした時と同じように、カウンター気味で撃ち倒す。
「ちがうか……」
ドロップはなかった。
どうやら先制攻撃かどうかは問題じゃないみたいだ。
それから何体もの猫又を倒していった。
思いつく限りの現象を切り分けて、ドロップするときとしないときの違いを割り出そうとした。
もしやステータスに影響が出てるのかという疑念もあってポータブルナウボードをつかったが、ドロップステータスはSのままだった。
ドロップSなのに、ドロップする場合としない場合がある。
「失敗」がふえる度に、考える時間が長くなった。
これまでの事を一つずつ思い出して、その違いを見つけようと必死になった。
その考えごとに気を取られて、気づけば、新たに出会った猫又の鋭い爪が目の前に迫っていた。
完全に気をぬいてた、油断してた。
今更よけることも出来なくて、俺は覚悟してこの一発をうけてから反撃しようと歯を食いしばった――が。
攻撃は来なかった。
爪は目の前でピタッと止った。
それだけじゃない、攻撃を途中で止めた猫又は、そのまますぅ……と薄くなって消えていく。
その場に、グレープフルーツを残しながら。