75 Intermission diary of male dormitory staff




 夏休み。

 男子寮で働く職員の一人は日記を付けていた。

 ○月×日。

 学園は夏期休暇に入り、多くの生徒たちが帰省した。

 普段の仕事が減ったのは嬉しいが、全員が帰省するわけではない。

 実家に帰れない生徒も毎年存在する。

 だが、今年は特に多い。

 それよりも、また外道――違った。

 バルトファルト伯爵が何かやったらしい。

 留学先の国で暴れ回ったと聞いたが、あの人は本当に何をしているのだろうか?

 噂ではアルゼル共和国に喧嘩を売ったらしいが、誰か嘘だと言ってくれ。

 伯爵と親しい貴族様たちがアルゼル共和国に向かったとも聞いた。

 もう、あの人はどこに行っても何かする。

 出来れば戻ってきて欲しくないが、最近は男子寮の様子がおかしい。

 特待生が多く入学した影響だろうか?

 時折、丸い球体が浮かんでいるという連絡を受ける。

 同僚たちも、夜中に青い一つ目を見たと騒いでいた。

 止めてくれ。

 俺は怖がりなんだ。

 今度の夜勤の見回りは誰かに変わって欲しい。



 ○月△日。

 ――最悪だ。

 夜の見回りで青い一つ目を見てしまった。

 窓の向こうを覗いたら、反対側の建物の廊下を浮かんでいるように移動していた。

 同僚も見た奴が増えている。

 本気で神殿に頼んでお祓いをしてもらうべきだろうか?

 みんなでお金を出し合う話が出ているが、これは学園にも報告するべきかもしれない。

 それはそうと、何だか残った生徒たちが騒がしい。

 アルゼル共和国と戦争にならなくて良かったと思っていたら、男子寮の幽霊騒ぎだ。

 出来れば生徒さんたちには静かにして欲しい。



 ○月▲日。

 ――最悪だ。

 夜の見回りで、男子寮にいないはずの女子を見た。

 潜り込んだなんてあり得ない。

 女子寮の方では、その日に抜け出した女子なんていないと言っていた。

 それに、俺が見た女子生徒は学園に該当者がいなかった。

 似たような女子生徒はいるが、帰省中で学園にはいないらしい。

 では、俺が見た女子生徒は誰だったのか?

 本当に勘弁してくれ。

 少し背が高く、長い髪をしたスレンダーな女子生徒だった。

 もしかして、男子寮に残った生徒が外から女を呼んだのだろうか?

 だが、それなら制服姿はおかしい。

 くそ――この男子寮、呪われているのか?



 ○月□日。

 ――俺はおかしくなったのかもしれない。

 朝方の話だ。

 掃除をしていた俺は生徒さんに声をかけられた。

 だが、その相手がおかしい。

 女子生徒だったのだ。

 男子トイレを清掃中に、女子生徒が俺に挨拶をしてきたのだ!

 ――きっと疲れているんだ。

 最近、アルゼル共和国から多額の賠償金を得たという噂が聞こえてくる。

 バルトファルト伯爵が共和国で暴れ回ったらしい。

 あの人、外国で一体何をやっているんだ?

 一歩間違えば、共和国と全面戦争だったのに。

 正直、留学してくれて助かったと思っていたが、これなら学園にいる方がマシなのではないだろうか?

 だが、あの人がいると何故か問題が起きる気がする。

 それよりも、あの女子生徒だ。

 女子が嫌いな男子生徒と一緒に歩いていたように思うが、俺の気のせいなのだろうか?



 ○月◇日。

 ――もう嫌だ。

 今日、男子寮に女子生徒がいると思って注意をしたんだ。

 普段女子には興味もないグループがその女子を囲んでおり、異様な盛り上がりを見せていた。

 不思議に思ったが、規則なので注意をしたんだ。

 そしたら――。

「俺、アーロンだけど」

 ――だってさ。

 ふざけるなよ。

 普通にちょっと可愛いと思ったのに!

 男って何だよ!

 しかもアーロンって――今年入学した特待生じゃないか。

 以前はもっと不良というか、少し怖い感じだったのに。

 周囲の男子たちはアーロンを囲んで盛り上がっているし、聞けば夜中に女装をして歩くのが趣味になったとか何とか――お前かよ!

 男子寮に出る女子の幽霊の正体が、まさかの女装男子だ。

 可愛かったのが余計に腹立つ。

 職員さんも一緒に、とか誘うな。

 俺はお前らと違ってノーマルだ!



 ○月■日。

 ――ノーマルって何だ?

 ここ数日、俺はおかしくなったのかもしれない。

 毎回おかしくなったのかもしれないと書いているが、今日の出来事はショックだった。

 That Aaron.

 That evil Aaron - he looked so cute.

 More ladylike than a bad schoolgirl, or where the hell are you going with this?

 Besides, he's learning something about makeup and beauty.

 The problem is that they can't kick him out of the boys' dormitory because he's a boy.

 Many of the remaining boys are obsessed with Aaron.

 I know the feeling.

 It's painfully obvious.

 Compared to the girls who have been too much of a pain in the past, Aaron is the ideal girl now.

 --even though he's a guy.

 It's already perfect, except for the gender, and the normal boys are saying, "It's just Aaron, right? What did she say?

 Wake up. Please don't go that way.

 --I'm going to be shaken up too.



 ○Month◆ day.

 We all came up with a nickname for Aaron today!

 It's ridiculous that not long ago I was caught up in the little things that I was a man or a woman.

 Now, it's a nickname for Aaron.

 You can't be Aaron in his cute little form forever.

 We all thought about it - we settled on "Arle" as a nickname.

 Aron. --and Arle thanked us.

"Thank you, everyone.

 -- that smile was dazzling.

 It's been ten years since I've been on the school's staff, but it's impossible for a girl that pretty to be a man.

 I'm sure it's because she's not a woman that she's that pretty.

 I heard that a lot of things happened in the Arzel Republic around us, but what's important to us is Arle's nickname.

 Ignore all that ambient noise!

 I heard the Count did something again, but it doesn't matter.

 What matters is this moment, right now!



 _

 --I was transferred to a different office.

 Apparently the problem is that I got too close to the boys.

 I don't feel like doing anything when I think I won't be able to see Ahle-chan anymore.

 When I reported this to my boss, he said.

That's why I had to relocate.

 And he gave me a very cold look.

 --I don't know what that means.