「あー……んんっ、ふわぁああ」

　ベッドで眠っていたレイが大きく伸びをしながら目を覚ます.
　起きて周囲を見渡すと、視界に入ってきたのは3畳程度の狭い部屋. ただでさえ狭いその部屋の大半をベッドで埋められており、1人で過ごすのがやっとといった広さか.
　実は少し前に2mを近い体格の男やその相棒の女がこの部屋にやって来たこともあるのだが、その時はまさに息が詰まるといった程に密集率が高かったことを思い出し、レイは視線を窓の外へと向ける.
　窓から見える空は昨日レムレースと戦った時と比べると比較にならない程に暗く、雨雲に覆われていた.

「……レムレースと戦うのを昨日にして良かったな」

　ドラゴンローブを羽織り、スレイプニルの靴を履き、ミスティリングから出した流水の短剣を使って身支度を調えながら呟く.
　炎の魔法を得意としているレイにとって雨が降っているという状況は好ましくないという理由もあるし、何よりもレイ自身が雨が降っている中でレムレースのような巨大なモンスターと戦闘するのはごめんだという至極単純な理由もあった.

「とは言っても、昨日はさすがに騒ぎすぎたか. もう昼近いようだし」

　部屋の外や宿の外から聞こえて来るざわめきに耳を澄ませ、今の時間を予想する.
　昨夜はギルドに併設されている酒場で飲めや歌えの大騒ぎをして、宿に戻ってきたのは日も変わる頃だったのだから、この街の住人にしても随分と夜遅くまで起きていたことになるだろう.
　実際、レイ自身は少し早めに切り上げたのだが、ギルドの酒場にはまだ大勢の冒険者達が残っていた. 特にレイがミスティリングから出したレムレースの肉を使った料理を皆が争って取り合っていたのを考えると、レイが帰った後もまだまだ酒場で騒いでいたのだろう.

「ギルドには……行く必要は無いか」

　恐らく今ギルドに行ったとしても、そこに残っているのは死屍累々とした酔っぱらい達だけだろう. そう判断したレイは、ロセウスと約束した10日をどうやって過ごすかを考える.
　そもそもの目的がレムレースがこれ以上姿を現さないのを確認するということである以上、エモシオンの街から遠く離れるのは却下である. 遠くに足を伸ばせないとなると、この街の周辺で時間を潰すしかないのだが……

「この辺に出て来るモンスターの魔石を集めると考えれば、悪いことじゃないか. まずはその為の準備だな」

　幾度か海にいるモンスターを倒してはいるのだが、そのモンスターの死体は決まって海中へと沈んでいく. 普通なら死体ともなれば海に浮かぶ筈なのだが……

「となると、倒したモンスターの死体を引き上げる為に必要なのは……銛とかか？　港街なんだし、鍛冶屋に行けば作って貰えると思うけど」

　呟き、部屋から出て1階の食堂へと向かう.
　そこでは昼食を食べている者がそれなりの数存在しており、同時にどこか明るい雰囲気が漂っている.

「あ、レイさん. おはよう……いえ、おそようね. 随分ゆっくりだけど……まぁ、今日はしょうがないか. 食事はどうする？　レムレースの件もあるから、今日くらいはご馳走するわよ」

　階段から下りてきたレイを見て、声を掛けて来た宿屋の娘に小さく頷いて食堂へと向かう.

（さすがに港街. レムレースの件も既に広まっているらしいな）

　周囲にいる冒険者や船員達の声を聞きながら食事を待っていると、やがて焼き魚の身を解して味付けしたものが挟まったサンドイッチと、魚介類のたっぷりと入ったスープ、冷たい水がテーブルの上に並べられている. 更にはこれまでの食事でレイの好みを把握したのか、巨大なエビを縦に半分に割り、チーズとパン粉を乗せて焼いたグラタンのような料理も出て来た.

「随分と豪華だな」
「えへへ. レムレースを倒してくれたお礼だよ. 賞金首ってことで冒険者が結構集まってたけど、それでも中々船が入港出来ないから皆困ってたんだ. その原因を取り除いてくれたレイさんに、この街の一員としてね」

　照れたように笑う宿屋の看板娘の声を聞きつつ、最初にエビへと手を伸ばす. フォークでエビの身をくりぬいてチーズと一緒に口に運ぶと、エビのプリプリとした歯ごたえとチーズのコクが一体となってレイの舌を楽しませる.

「……美味いな」
「えへへ. でしょ？　大きいエビを半分も使うから値段はちょっと高いけど、この店の名物料理なんだ」
「確かにこの味なら名物料理にもなるだろうな. ……港の方はどうなっているか分かるか？」
「あ、うん. 今日の朝早くに最初の船が1隻出港したよ. 最初は他の船もその船の様子を見てたけど、レムレースが出ていた海域を通り過ぎたのを確認してからは、他の船も一斉に出港している. もう港に船は殆ど残ってないんじゃないかな？　残っているとしても漁船とかだと思う」
「……へぇ」

　感心したように呟き、薄らと笑みを浮かべるレイ.
　その様子に一瞬見とれた娘だったが、すぐに我に返ると仕事へと戻っていく.
　そんな後ろ姿を見送り、レイは貝の出汁がたっぷりと出ているスープを飲みながら考える.

（最初に出港した船は余程度胸がある船長や船主がいたか、あるいは港の使用料を支払えなくなる程に危なかったか. ……ま、その辺は俺には関係無いか）

　昼食と呼ぶには豪華すぎる食事を味わいながら食べ尽くし、まずは街の様子でも眺めてこようとセトのいる厩舎へと向かうのだった.





「確かに昨日に比べると活気が戻って来ているな. 冒険者の数はそれなりに減っているようだけど」
「グルルルゥ」

　街中をセトと共に歩きながら、呟くレイ. その手には魚の串焼きや、イカの一夜干し、サンドイッチや南国の果物といったものが大量に抱えられており、セトが鳴くのに併せて赤と青の斑模様をした果物をクチバシの中へと放り込む.
　レイが持っている大量の食べ物、これを手に入れるのにレイは銅貨の1枚すらも使っていない. その全てが店の者からの好意によって無料で受け取ったものだ.
　レムレースが倒されたという噂は昨夜の内に街中を駆け巡ったらしく、昨日は街にある酒場のいたる場所で飲めや歌えの宴会騒ぎになっていたらしい. 同時に、誰がレムレースを倒したのかというのもレイの予想通り冒険者達から話が広まり、その結果が持ちきれない程の食料品の山だった.
　元々レイは海産物を目当てにエモシオンの街に来たという一面もあり、料理の材料を大量に買ってはいた. その為にギルムの街と同様、この街の食べ物関係の店からは良客であると目されており、それなりに名前が売れていたというのもあったのだろう.
　既に持ちきれない料理や素材に関してはミスティリングの中に収納されており、レイの腕の中にあるのはあくまでも渡された食料品の1部でしかない.

「っと、ここだな」

　そんな中、とある屋台で腕のいい鍛冶屋を聞いたレイは目的の店へと到着する.
　大通りから少し横道に逸れた場所にあり、普通に探すだけでは見つけにくい. 店主のドワーフも頑固な性格をしており、人付き合いもそれ程得意ではないのだが、それでも曲がりなりにもエモシオンの街で鍛冶屋としてやっていけているのは、純粋に腕がいいからだとレイは屋台の店主に聞かされていた.
　そんな頑固なドワーフのやっている鍛冶屋の中へと入り……次の瞬間、飛んできた何かを反射的に回避する.

「うわああああああっ！」

　その何かは、悲鳴を上げながら横に回避したレイのいた空間を通り過ぎ、向かいの店の壁へとぶつかってベシャリと音を立てながら地面へと崩れ落ちていく.

「……何だ？」

　さすがに予想外の出来事に興味を惹かれてそちらへと視線を向けたレイが見たのは、見覚えのある顔だった. 2m近い体躯を誇っているその人物は、つい昨日のレムレース討伐で共に組んだ相手だったのだから.

「グルルルゥ？」

　セトが地面に転がっているエグレットへと近付いていき、喉を低く鳴らしながら前足でその巨大な身体――セトに比べれば小さいが――をそっと揺らす.
　大丈夫？　という風に心配するセトに気が付いたエグレットが立ち上がりながらセトの頭を撫でる.

「わ、悪いなセト. ……ん？　って、セト？　何でセトがこんなところにいるんだ？　レイも……」

　そこまで言ってようやく気が付いたのだろう. 小首を傾げながらレイへと尋ねるエグレットだった.

「腕利きの鍛冶屋がここにあると聞いてな. ……そっちは何でここに？　お前の外付け良心のミロワールはどうした？」
「いや、確かに俺はミロワールと行動を共にしてるけど、だからっていつも一緒にいる訳じゃねえぜ？　今日は別行動だよ」The reason why Egrett doesn't seem to have been particularly damaged, even though he was blown away, is it because of the strength of the armor, or because of the arms of the person who threw it away?

(Nine out of ten, it's Egrett's own strength.)

　Deciding so easily, Ray takes a look at Egrett and puts Sett on standby to enter the blacksmith's shop. But in that moment...

"Well, you're telling me to go home! I'll never fire a weapon without your knowledge!"

　From the back of the smithy, a hammer to strike the sword comes flying with such an angry cry.

"Oh, I'm sorry, but Egrett speaks differently."

　Rey, who holds a hammer with one hand that comes flying while the handle is spinning, kills the momentum.
　A dwarf appears from the back of the blacksmith's shop, suspicious of the sound of a hammer dropping.
　Although he is about 130cm tall, his body muscles are beautifully trained and probably not much different from Egrett's in pure weight. Or it could be heavier than Egret. He has a strong face and a beard that seems to reach his chest, and he looks like a typical dwarf.

"Oh? What? You didn't know that, did you? ...I'm sorry, but I'm not in a very good mood now. And what is your business?"

　Ray opens his mouth to the Dwarf, who frowns heavily and glares at Egrett, who is peeping through the entrance of the shop, to finish his business.

"I want to do something about the underwater monsters sinking when they kill me. Do you have a harpoon or something? Give me a barrel of scrap iron, scrap ore, or blade fragments that you have not used since then."
"...what are you going to do with all that garbage, let alone harpoon?"
"It's kind of like my trump card. It's a very powerful weapon when you're fighting a huge monster like REM Race."

　Remrace. The words twitch my eyebrows.

"Rem Race? Hey, the adventurer who beat the rumored Rem Race since yesterday.
"Oh, it's about me. Egrett, who was thrown outside earlier, is one of the parties that beat the REM race."
"What!"

　Egrett smiles bitterly as he peeps through the entrance of the shop as his eyes wide open.

"If you say you beat him, most of his credit is with Ray. "It was Ray who prepared magic items to force the transition, and it was Ray who got rid of the REM race that we could hardly damage."""
"... your spear pierced him, and he lost one eye."

　Listening to the conversation, Dwarf nodded softly and spoke to Egrett, who was peeping out of the shop.

"Well, if you say you've beaten a REM race, you can't do it right. Come on in."

　Smack your tongue, invite Egrett into the store, and instruct him to sit on a chair with his eyes fixed on it.
　Ray and Egrett sat face-to-face in their chairs, and the first to open their mouths was Dwarf.

"I don't know what's going on there." If you beat the REM race, I'll put up with your story a little longer. What kind of weapons can you make out of that material?"
"It's Paul Ax," I want you to make a pole ax with REM lace tusks."
"... as I said before." That fang is not for Paul Ax. What a long fang! You can still make good use of it if you turn it into a spear or a halberd. Harbard can use the tip of his tusks as the tip of a spear, but Paul Ax can only do things like break his tusks into small pieces and mix them into them, in terms of sheer aggression... 70% of Harbard's tusks. Are you still particular about Paul Ax?"
"Oh, of course,"

　Egret nods without a moment's hesitation. Staring at the Egret, Dwarf breathes deeply and nods, scratching his head.

"Sure! I can't say I don't want to be asked by a bastard who beat the REM race. All right, but as long as I make it, it's not half-baked."
"Oh! I brought in that much material, and I have to ask you to make something suitable for me."
"Oh, it's a waste. Well, that's fine. So you said Ray over there. Were you a harpoon?"

　Ray nods to Dwarf's words as he approached me to change my mind.

"Yes. To be exact, it's good to have a return on the tip of the blade so that it won't come out easily after you stab it's stabbed. Also, since it is used as a weapon for throwing, I want you to attach a rope or something to the handle of the harpoon so that you can draw the prey you have stabbed. You don't have to think too much about the weight, so I'll take the one as sturdy as possible."
"...are you all right with that physique?"
"Oh, I'm training you even though you look like this. Also, if possible, put flame ore chips in the barrel. The explosive power is different."

　Dwarf nodded to Ray's words, sighing as if he had received an order from Egrett.