333 0333話




 その場にやってきた冒険者達は、エモシオンの街を出た時に比べてかなり減っていた.
 動きの早さを重視してレザーアーマーを装備しているような戦士や、同じく身軽さを信条としている盗賊、弓術士のような者に置いて行かれた重装備の者も多いし、中にはパーティのメンバーだというのに、足が遅いという理由で置き去りにされた魔法使いといった者もいる.
 だが、その他にもレムレースの巨体を見て――この時点ではまだ誰もレムレースだとは思っていなかったが――自分にはどうしようもないと諦めた者もまた多かったのだ.
 体長30m以上の大きさを持ち、更にはその巨体が跳躍をするといった光景を目にしても心折れなかった者、あるいは街を守る為に少しでも情報を得ようとする者、あわよくば何らかのお零れを得られるのではないかと考えた者といった者達が現場に到着した時に見たのは、頭部の殆どが砕け散って明らかに死んでいる巨大なモンスターと、そのモンスターの死骸の周辺で腰を落として少しでも体力を回復させようとしているレイ達の姿だった.
 その場に到着した殆どの者が目の前に広がる巨大な死体に目を奪われる中、冒険者の1人がレイ達の方へと近付いていく.

「お、おい. この化け物をやったのはお前達でいいんだよな?」
「……ああ、俺達が倒した」

 レムレースの血や肉片といったものが転がっていない場所で、寝転がっているセトに寄り掛かって体力を回復していたレイが小さく頷き、その周辺にいたエグレット達もまた同様に頷く.
 それを確認した冒険者はレムレースの巨体を横目に小さく息を呑み、再び口を開く.

「こんな巨大なモンスターが街に近付いていればすぐに分かる筈だ. どこからこんなのが現れたんだ? まさか地中を通って来たって訳でもないんだろう?」
「そうだな. こいつは少し前までは海の中にいたからな」

 レイが何でも無いかのように呟いたその言葉に、一瞬冒険者の男は意味が分からないとでも言うように間の抜けた顔をする.
 それは同時に、その場でレイと男のやり取りを聞いていた冒険者の多くが同じだった.
 地面で休んでいるレイと、その近くに転がっている体長30m近い巨大なモンスターの死骸. 周囲の光景はレイの攻撃やレムレースの放ったウォーターブレス、そして何よりもこの巨体が何度も跳んだりした影響で酷く荒れている. その様子を何度となく見比べ、やがて先程レイに問い掛けたのとは別の冒険者が口を開く.

「それってもしかして……レムレースだったり……する?」

 何故かレムレースに執拗に狙われていたレイだ. そんなレイが倒した巨大なモンスターともなれば、その正体を想像するのはそう難しい話ではない. だが、これまで幾度となく船が襲われる場面は見て来たが、これ程の大きさを誇るモンスターだというのは完全にその場に駆け付けた冒険者達の予想外だったのだろう.
 他の冒険者達も含めて、その場にいる殆ど全ての者が唖然とした表情を浮かべてレムレースの死体へと視線を向けていた. そんな中……

「ひっ、ひいいいぃぃっ!」

 周囲に突然悲鳴が響く.
 その悲鳴の主を求めてその場にいた冒険者達の視線が向けられると、そこにいたのは20代程の小狡そうな顔をした小柄な男だった.
 悲鳴を上げつつ手を振るい、短剣諸共に手に付着した腐食液を振り払っている.
 実際に手に腐食液が触れていたのはほんの数秒程度だったのだが、それでも男の手は酷い火傷を負ったかのような傷が付けられていた.
 だが、それを見ていた誰もが心配そうな視線ではなく、呆れた様な視線を悲鳴を上げている男へと向ける.
 その場にいる殆どの者が、悲鳴を上げている男がそうなった原因を理解していたからだ. 即ち、他の者に見つからないようにレムレースの素材なりなんなりを奪おうとしたのだろうと.

「言っておくが、レムレースは皮の表面に腐食液を分泌する能力を持っていた. 迂闊に触るとその男みたいに手に怪我を負うぞ. ……まぁ、さすが冒険者と言うべきか、咄嗟に短剣を放したおかげか傷自体は深くないようだが」

 レイの口から漏れたその言葉に、男の仲間だろう者達が慌てて近寄りポーションを振りかけていく.
 その様子を見ながらレイも脇腹の痛みを思い出すも、さすがと言うべきか戦闘時よりも痛みが治まっているのに気が付く.

(さすがにゼパイル製の肉体だな. ……まぁ、戦闘終了後に傷が治っても微妙だが. いや、長期戦を考えればそうでもないのか?)

 そんな風に内心で考えているレイから少し離れた場所では、他にも数人程の冒険者達が手を押さえて悲鳴を上げている男を見ながら厳しい表情を浮かべていた.
 レムレースの素材を狙っていたのは自分達も同様だったのだが、真っ先に動かなくて良かったといったところか.

「けど、これがレムレースだとどうやって証明するんだ?」

 最初にレイに声を掛けて来た冒険者の男が、不意に口を開いて尋ねる.
 エモシオンの沖にいたレムレースを強制的に転移させて倒しましたと言っても、ギルドや街の上層部者達は納得しないだろうと匂わせる言葉だ.

「だろうな」

 レイにしても、勿論そんな風に言われるのは半ば予想していたことだ. そもそも強制転移させると言っても、それをやっているのを実際に知っているのはレイだけで、エグレット達はレイにそのようなマジックアイテムがあると聞かされただけだし、エモシオンの街の住民にしてみればいきなり体長30m近い巨大なモンスターが街からそれ程離れていない場所に姿を現したのだ. 客観的に見て、目の前で死んでいるのをレムレースだと認めさせるのは難しいのは事実だった.

「そうだな、俺とセトが海上を飛んでいてレムレースのものと思われる攻撃が無ければいいと思うが……いや、それだと確実じゃないか」
「だろうな. 少なくても上の人間はそんな不確かな状況証拠じゃ納得しないだろうよ. それよりも確実な手段としてはある程度エモシオンに滞在して、実際にレムレースによる被害が出ないと確認されればいいんじゃないか?」

 男の言葉に、それしかないかと頷くレイ. だが、すぐに視線を男の方へと向けて不思議そうに尋ねる.

「何でそこまでしてくれるんだ? 最初はお零れ狙いかとも思ったが、そんな感じでもないし」

 そんなレイの言葉に、先に声を掛けられた他の冒険者達も同様に頷いていた.
 お零れを狙ってここに来たのなら少しでもレイから毟り取ろうとするのが当然だと、その場にいた冒険者達の多くが思ったからだ.
 勿論先程の姑息な盗賊の男のように、無断でモンスターの素材を剥ぎ取ろうとするのは言語道断だ. だが、お互いが納得ずくの上で約束なり契約なりを結ぶのなら問題は無い.
 だが、そんな周囲の視線を受けながら男は苦笑を浮かべて首を振る.

「何、俺の場合はここに来た多くの冒険者と違ってエモシオンの出身だからな. レムレースのような奴がいなくなってくれるのなら大歓迎ってところだ」
「なるほど」

 単純な理由だけに酷く納得した様子のレイが、ようやく休憩を終えて立ち上がる.
 そんなレイに向けて声を掛けたのは、こちらもまた同様に立ち上がったエグレットだった.

「レイ、報酬の分け前については約束通りでいいんだな?」

 愛用のポール・アックスが腐食液で破壊されたというのに、偉く上機嫌な様子のエグレット. その理由は振り向いた瞬間に分かった. 自分の身の丈程もある鋭い牙を手に持っていたのだから.

「……いつの間に. 随分と目敏いな」

 エグレットのことを単なる戦闘狂とばかり思っていたレイだったが、その様子に感心しながらも頷いて言葉を続ける.

「ああ、問題無い. 約束通り武器に使えそうな素材はお前が優先してくれ. ……にしても、頭部を吹っ飛ばしたってのに、よくそんな牙が丸々1本残っていたな」
「何、お前の攻撃で頭が吹っ飛んだ時に偶然こっちの方に飛んできてな. ……正直、もう少し横に飛んできていれば俺自身が危なかったけどよ」
「それでも笑っていられるお前が凄いよ」

 溜息を吐きながらも、あるいはその精神的な強さこそがランクB冒険者たる由縁なのかもしれないと思わず納得するレイ.
 そのまま周囲に散らばっている牙を集めているエグレットがその場にいた他の冒険者達に牙を拾うよう幾ばくかの報酬で頼んでいるのを背にし、地面に30m程もある巨体で倒れているレムレースへと改めて視線を向ける.

「さて、問題はどうやって解体するかだな. そもそもどこが素材として使える部位なのかも分からないし、それ以前に腐食液の出ている皮をどうやって剥ぐか. 味が絶品だと分かっているだけに、肉をこのまま腐らせるのは勿体ないしな」

 ランクの高いモンスター程……より正確に言うならば魔力を多く内包しているモンスターの肉程、美味であるというのはこの世界で一般的に知られている話なので、レイとしてもこれ程に巨大な肉の塊を逃す気はなかった.
 レイの後ろでレムレースの身体を見ながら嬉しそうに喉を鳴らしているセトの件もあるが、なによりレイ自身が食べてみたいという欲求があった為だ.

(長いし、蒲焼き……いや、この太さなんだから蒲焼きは無理か. そもそも醤油とかタレが無いしな. 白焼きにして塩で食べるのはありか?)

 内心でどうやって食べるかを考えつつ、まずは試しとばかりにミスティリングから投擲用の槍を取り出して構える.
 その様子を見ていた周囲の冒険者達が巻き添えを食らいたくないとばかりに大きく広がるのを横目に、穂先でレムレースの皮を斬り裂くべく大きく槍を振るう. だが……

「ちっ、駄目か」

 振り抜いた槍の穂先が、レムレースの皮に付着していた腐食液に触れた途端に腐食し、数秒と経たずに砕け散る.

「ねぇ、レイ. その腐食液がある限りどうしようもないのは分かるけど、なら腐食液の無い場所から皮を剥いだらいいんじゃない?」
「……なるほど」

 背後から聞こえてきたミロワールの言葉に、思わず納得して頷くレイ. The only thing I could think of was peeling the skin from the torso, so I couldn't think of a way to peel the skin from a place where the corrosive liquid didn't stick to the skin, i.e. from the neck near the exploded head.

"But then, as long as the skin is used as a material... as long as the corrosive liquid is attached, is it still too late?" ...no? Not really."

 At that moment, Ray's mind passed through the fire whirlwind he used during his last war with the Empire of Bestia. At that time, I used barrels full of scrap ore and blade fragments that I used for REM lace for further damage. In the same way, I fear that the skin soaked in the corroded liquid of REM lace, combined with the magic of my own flame, would be a terrible force.

(However, in that case, it will become corroded smoke and spread around, so you can't use it carelessly in windy places. If I were to use it, it would be indoor.)

 With this thought, I thrust a dagger from the Misty Ring into the neck of the Rem race. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . ..

"Isn't it a normal dagger?"

 The tip sinks into the skin, but it doesn't seem to pierce.
 Even if I try to cut the skin off my blasted head with a sword blade, it won't work.
 Just in case, I cut the grass growing on the ground with a dagger, but it is cut off easily.

"Then... this way." I don't really want to use it to disassemble monsters like this one."

 Breathe out, pull the misril knife out of the sheath hanging from the waist, and insert the blade into the skin with magical force.

"That would have been all right," and the flesh is fine with an ordinary dagger."

 The skin could only have been cut with a misril knife, but when it came to meat, Ray spoke to the many adventurers around him, breathing relief that he could have cut it with a regular dagger.

With magic items, you can peel the skin off the REM lace. In terms of meat, conventional weapons can also be cut. If any of these people want a small share, join us in the demolition. I'll give you twenty percent of the meat each has cut out."
"Thirty percent!"
"No, 40 percent is fine!"

 As soon as Ray tells me so, I hear such voices from the adventurers.
 Maybe it's because he wants to increase his share even a little... when Ray glances at Seto, he nods a little with a purring voice.
 Even Seto understands that if you pay too much remrace meat as a reward, you'll eat less. That's why we quickly saw through Ray's intentions.

"If you have any complaints, you don't have to take part. Also, if they participate in the demolition, the set will be alarmed in the sky. The main guard is other monsters who will be drawn to the smell of REM race blood and meat, but at the same time they are watching for secret embezzlement by those who participate in the demolition. If you think you can mislead Gryphon's eyes, try it."
"Roll-roll-roll-roll!"

 A set who hears Ray's words and cries loudly.
 Upon hearing this, the adventurers compromise to put up with the reward at 20 percent, and hire other adventurers who were hesitant to dismantle on the condition that they would hand over about half of those who participated in the break-up as security agents around themselves.
 Fortunately, it wasn't even noon yet, so on the spot the Rays began dismantling with a large number of adventurers.